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無垢

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150104 11日目 バラナシ(インド)

なぜかバラナシにいる。
予定では寝台列車でデリーに着いてスリランカ行きの飛行機を待っているはずなのに。

こうなったのも、寝台列車が30時間遅れというインド人もびっくり状況に巻き込まれたからである。このスリランカ行きの飛行機に乗らないと日本に帰れなくて、卒論中間発表に間に合わなくて、卒業も危ぶまれるんじゃないかなって。バラナシとデリーは800km以上離れていて、フライトまで24時間もなくて、バスもタクシーチャーターも厳しいぞむむむと。スリランカ航空にフライトの変更を問い合わせて、新たに日本行きのフライトをさがして。じゃあどうする、じゃあこうしてみる、あれやこれやとやっとこさで国内便を手配できた頃には、夜11時をまわっていた。

ホッとひと安心したら、朝から何も食べてないことを思い出して途端にお腹が空いた。適当に食堂らしきところに入ると、メニューはヒンディー語のみで地元民御用達感があった。閉店時間が近づいているらしく、椅子をテーブルの上にあげたり、まかないを食べたりしている従業員達を横目に、マッシュルームパニール(マッシュルームとチーズのカレー)を食べた。外国人用にスパイス調整されてなくて、大当たり、うますぎ。これが最後の晩餐かとセンチメンタルジャーニーに襲われて、惜しむように味わった。

そんなこんなでバラナシ空港からデリー空港、コロンボ空港へ飛ぶ。お金とわたしと飛ぶ飛ぶ。
コロンボ空港では、発着ロビーでこうちゃんと折り紙をして遊んだ。パタンと半分に折ったり重ねたりしたものを組み合わせて、「これが家で、トンネルが繋がっててね、」ってひとつひとつ説明してくれた。いいなあと思った。

ふと思い出す。いくつのときだろうか、家の前の草をすりつぶして「薬草だよ」とお母さんに見せると、「薬草っていうのは薬の草で、これは薬じゃないからちがうでしょ」と言われた。よくわかんないけど悔しかった。

いつのまにかおおきくなって、すこしだけ賢くなって、経験もつんで。
いつのまにかおおきくなって、現実に見えるものしか見れなくなって。

こうちゃんみたいにありたいと思う。見えないところに想像力をはたらかせて、ワクワクしつづけたい。地に足がついてないよ、現実を見据えろよ、それもわかる。だけどそれにワクワクを殺されたくはない。夢見る少女でいたい。


そうして、こうちゃんはわたしに、なんで靴を履いていないのか尋ねた。
なんでと訊かれるとなかなか難しい。
壊れたからといえばそうだけど、新しい靴を買おうと思えば買えた。
だけど買わなかった。靴を必要と思わなくなった。なにより、布一枚越しの地の感触を気に入ってしまった。

一週間前、ハリドワールで山に登ったとき靴が壊れた。そのあと赤い靴を買った。550ルピー(1045円)、路上のチャイなら110杯も飲めてしまう。インドにしてはなかなかいい値段だったけど、日本でも履けるようにと少し上質で洒落たものがほしかった。だけどこの靴も結局すぐにつま先部分が破けて、穴がおおきくなって履けなくなった。

インドで4足の靴を捨てて、今ある状況で満足するようベクトルを変えようと割り切ったとき、靴下で歩いていた。からだと一体化した足元というか、底の薄い靴を履いているような、不思議な、だけど悪くない感覚。というより寧ろ、地からの押し返しがたまらなくいい。汚してはいけないところでは、靴を脱ぐように、靴下を脱げばよかった。こんな簡単なことだった。


(福島は雪が積もっていて寒かった。だから靴を履いた。あたたかくなった頃にまた靴を脱いで地の押し返しをたのしみたい。)